Gill Sansを比べてみよう
2000年7月1日制作 10月3日追記

 

Gill SansのオリジナルのMonotype社活字と,adobe社が販売するデジタルフォント,Bitstream社のデジタルフォントを比べてみました。
(オリジナルのMonotype社活字は『書物と活字』ヤン・チヒョルト著 朗文堂。からスキャンしたものです。)

※黒い文字がMonotipe社のオリジナル活字,マゼンタのアウトラインがadobe社が販売するデジタルフォント,シアンのアウトラインがBitstream社のデジタルフォント。

こんな雑文でも一応著作権法で守られています。無断転載はしないでください。

 

図1 『書物と活字』ヤン・チヒョルト著 朗文堂より
 

Monotipe社のオリジナルと比べて

adobe社,Bitstream社のデジタルフォントはともに
「G」「C」「M」「N」「U」「b」「u」の幅が広い。
「J」「a」の末筆の角度が違う
「R」「X」「0(アラビア数字)」の形が違う
「e」のバーが低い

Bitstream社のデジタルフォントの
「W(大文字)」の幅が狭い
「w(小文字)」「c」「d」「e」「m」「p」「q」の幅が広い
「&」の高さが高い

adobe社,Bitstream社のデジタルフォントはともに(「J」「a」「e」を除けば)良く原型をとどめ,良い微調整をしているように思います。
Bitstream社のものはadobe社のものよりも,オリジナルと異なる文字が多いようです。

2000年9月22日,道広勇司さんから以下のようなメールをいただきました。

ここから--------------- 
『評伝 活字とエリック・ギル』,河野三男訳・著,朗文堂(2000)という本にエリック・ギルが描いた原図と,モノタイプ社が修正を施した最終的な原図(図2)が載っています(訳・著となっているのは,ギルの著作を訳した箇所があるためです)。これを見ると,けっこうあちこち直していることがわかります。

・エリック・ギルの原図では,a の第一画の終筆は真っ直ぐ下を向いています。

・モノタイプ社では終筆が右下を向くようにしました。

・大熊さんが参照された『書物と活字』(ヤン・チヒョルト)に掲載されていたのはこのモノタイプ社の原図だと思います。(これは推測)

・現在,我々が目にするデジタルタイプのGill Sansは,いずれとも違っていて,件の終筆は右上に跳ね上がっています。
 この修正はいつ行われたのでしょう? デジタルタイプになるときに改刻されたのでしょうか。いえ,そうではありません。例えば,私の手許にある『ローマ字印刷研究』,井上嘉瑞(よしみつ)著の復刻版を見ると,書体見本にGill Sansが載っているのですが,やはり終筆が跳ね上がっています。つまり,金属活字のときにすでにこういうタイプフェイスだったようです。

・それから,小文字のpの左上の角の部分の異同も興味深いところです。ギルの原図では,真下に降ろす第1画と,右へ向かう第1画の始まりが垂直に交わっています。それに対し,モノタイプの原図では,第2画は第1画の上端よりやや下がった位置からやや右上がりに始まっています。(dの右下,qの右上も同様)

・この部分が,デジタルタイプのGill Sansではどうなっているかというと,ギルの原図に戻っています※1

・ところで,『評伝 活字とエリック・ギル』には,もう一つ,Gill Sansのファミリーの図版(図4)があります。この図の出典はどこなのか分かりません。
 この図では,面白い事に,a はデジタルタイプの GillSansのように,aの尻尾が右上に跳ねています。ところがpの左上の部分は,どちらかというとモノタイプの原図に近くなっています※2
ここまで---------------

※1 「p」がギルの原図のようになっているのは,adobe社のものだけで,Bitstream社のものはモノタイプ社の原図のスタイルです。不思議ですね。(大熊)

※2 これはインキがはみだして,スリットがつぶれているだけのようにも見えます。(大熊)


朗文堂の『欧文書体入門』の
107ページの図版(1968年)では,「a」の終筆が右下を向いています。数字の「0」はまん丸じゃない。
108ページの図版(1935年)も同様です。
110ページの図版(????年)も「a」の終筆が右下を向いています。数字の「0」はまん丸のと縦長のと両方あります。「J」もディセンダーにはみだしているのと,はみだしていないのと両方あります。
104〜105ページの図版は「a」の終筆が右上に跳ね上がっています。これはデジタルフォントの印字のようです。(大熊)

図2 エリック・ギルが描いた原図と,モノタイプ社が修正を施した最終的な原図
・ギルの原図ではギルの原図では,a の第一画の終筆は真っ直ぐ下を向いているが,モノタイプ社では終筆が右下を向いている。
・ギルの原図では,真下に降ろす第1画と,右へ向かう第1画の始まりが垂直に交わっている。それに対し,モノタイプの原図では,第2画は第1画の上端よりやや下がった位置からやや右上がりに始まっている。(dの右下,qの右上も同様)
・ギルの原図ではb,d,rの縦画の起筆部分とp,qの収筆部分に角度が付いている。
 

図3 図2を元に大熊がふたつの原図を重ねたもの。青い文字がエリック・ギルが描いた原図,赤い文字がモノタイプ社が修正を施した最終的な原図。ギルの原図はディセンダーがかなり長いようだ。
 

図4 『評伝 活字とエリック・ギル』に載っているGill Sansのファミリーの図版から図2と同じキャラクターを集めたもの
・aの尻尾が右上に跳ねている。
道広さん,貴重なご教示ありがとうございました。
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